戦略計画に Hoshin Kanri (方針管理) 手法を活用する方法

小さい頃に、点つなぎのパズルを遊んだことはありますか？最初は、バラバラの点がただページを埋め尽くしているように見えますが、点をつないでいくと、大きな絵が見えてくるというものです。

Hoshin Kanri 手法は、塗り絵のパズルよりは少し複雑ですが、考え方は同じです。Hoshin Kanri 手法では、日々の作業と会社の大きな戦略的目標の間の点をつなぐことにより、全体像を見えるようにします。以下、その方法をご紹介します。

Hoshin Kanri とは？

Hoshin Kanri とは、企業が会社全体の目標と個々のメンバーによる日々の作業を結び付けるために使用する戦略計画手法のことです。この Hoshin Kanri は日本語の「方針管理」から来ていて、それが世界的に広まり今では英語になっています。

Hoshin Kanri は、社内のメンバー全員で同時に共通の目標に向かっていくためのものです。これは、Hoshin Kanri キャッチボールと呼ばれるフィードバックのやり取りを通じて実現されます。その仕組みは、以下のとおりです。

• 戦略チームが戦略を個々のメンバーのレベルまで落とし込み、戦略と日々の作業とのつながりに関する情報やコンテキストを提供する。

• 個々のメンバーがその戦略を実行に移す。

• 最後に、個々のメンバーの生産速度が戦略チームに伝えられ、その情報が戦略の分析や調整に使用される。

つまり、Hoshin Kanri は 1 回限りの思考法ではなく、むしろ、計画と改善を繰り返す継続的なサイクルであると言えます。

Hoshin Kanri 手法が役立つ場面

Hoshin Kanri は、会社全体の戦略を実行する場合や、チームをまとめて同じ全体的な目標の達成を目指す場合などに便利な手法です。しかし、計画と実行には多くの時間がかかります。

戦略的な優先事項の照準を合わせるもっと単純な方法をお探しの方は、代わりに、戦略計画から着手することをおすすめします。しかし、戦略計画を使うにしろ、Hoshin Kanri キャッチボールを使うにしろ、チームメンバーには必ず、作業に必要なコンテキスト、透明性、結び付きを提供する必要があります。

Hoshin Kanri マトリクス

Hoshin Kanri マトリクス (別名: X-マトリクス) は、Hoshin Kanri の計画プロセスを可視化したものです。チームはこれを、Hoshin Kanri 手法を実行するときに、目標と目的の結びつきを管理する目的で使用します。マトリクスは、誰がどのイニシアチブに取り組んでいるか、戦略とイニシアチブとのつながり、また長期的な目標とのつながりを特定するために使用します。

Hoshin Kanri マトリクスの見方

Hoshin Kanri 手法を使うなら、Hoshin Kanri マトリクスも使うべきです。Hoshin Kanri マトリクスは、個人が自分の具体的な作業と長期的な目標との関連性を理解する上でとても重宝するツールです。チームメンバーは、明確な目標を持っていなかったり、自分の作業と大きな戦略的目標とのつながりを理解していなかったりすると、誤って時間やリソースを不要な作業に使ってしまいかねません。代わりに、作業を目標につなげると、チームは決まった方向に前進していくことができます。

Hoshin Kanri マトリクスは、複雑に見えますが、見方はいたってシンプルです。この表は、情報を方位磁針のように 5 つのメインセクションに分割します。

• 長期的な戦略目標は南のセクションに配置。

• 年間の目標は西のセクションに配置。

• 改善イニシアチブは北のセクションに配置。

• 改善目標または KPI は東のセクションに配置。

• リソースはさらに東の一番端のセクションに配置。

Hoshin Kanri マトリクスは、下から時計回りに見ていきます。マトリクスの角には小さな点があり、各イニシアチブや目的の相互的なつながりを表しています。右端のリソースは、どのチームメンバーがどの改善イニシアチブや KPI の担当者であるかを示しています。

ここで実例を 1 つ紹介します。上の Hoshin Kanri マトリクスでは、下の「戦略的目的」セクションからスタートします。左側の点を追っていくと、「グローバル企業になる」という戦略目標が「海外市場に合わせた機能を追加する」という年間目標につながっているのが分かります。さらにその列を左上に向かってたどっていくと、その年間目標が「カスタマーサクセスプログラムをお客様のニーズに合わせて最適化する」と「国際的な市場調査を実施する」という 2 つの改善イニシアチブにつながっているのが分かります。同様のプロセスで KPI やリソースとのつながりも確認できます。

Hoshin Kanri 計画を立てる 7 つのステップ

Hoshin Kanri 計画戦略を開始するためのステップは、主に 7 つあります。すでに戦略計画がある場合は、ステップ 1～4 をスキップしていただけます。以下に各ステップをご説明します。

1. 組織のビジョンを確立する

組織の主なミッション、ビジョン、そして価値観を明確にします。一般的には、ビジョンステートメントとして明確にされます。ビジョンステートメントは、チームの長期的な目標を支持し、それを会社のミッションステートメントに結び付ける内容でなくてはいけません。

従来の戦略計画プロセスでは、長期的な目標の照準を合わせられるように、組織のビジョンを明確にすることが重要でしたが、Hoshin Kanri 手法では、さらに一歩踏み込んで、個々の作業が会社の長期的な目標、さらには、組織のビジョンに及ぼす影響が視覚化されます。

2. 戦略的な目標を立てる

戦略目標 (ブレークスルー目標) とは、ステップ 1 で定義したビジョンを達成するのに組織が行う必要のある変革のことです。この目標は、戦略のいわば支柱となります。目標は、達成に 3～5 年かかる長期的なものを 3～4 個程度作ることを目指し、多くなり過ぎないように気をつけましょう。目標の数が多すぎると、チームの集中すべきポイントがまとまらず、戦略目標の達成が一層困難になる場合があります。戦略目標を決定したら、Hoshin Kanri マトリクスの一番下のセクションに追加しておきましょう。

3. 年間目標を立てる

達成したい主なブレークスルー目標を明確にしたら、今度はチームで達成を目指す年間目標の設定に取りかかります。戦略目標は、達成するのにおよそ 3～5 年もかかるため、小さな短期目標に分割すると、大きな目標でも対応しやすく感じられます。

年間目標は、2～10 個設定することを目指しましょう。そうした目標は、SMART な目標、つまり、具体的 (Specific)、測定可能 (Measurable)、 達成可能 (Achievable)、現実的 (Realistic)、 かつ期限がある (Time-bound) 目標でなくてはいけません。チームのこうした目標への進捗を管理するには、各目標の重要業績評価指標 (KPI) として使用する、ビジネスの主な評価指標も決定する必要があります。Hoshin Kanri マトリクスでは、左側のセクションがこれにあたります。

4. 目標を組織全体に波及させる

作業に取りかかる前に、年間目標をより小さく、もっとアクションに移しやすいタスクへとさらに分割する必要があります。そうするには、比較的広範な年間目標を各チームや部門を対象とした、実行しやすいイニシアチブに分割します。この結果、チーム全体が大局的な目標、つまり年間目標や戦略目標だけでなく、企業が大きな目標を達成するのを支えるために取り組む小さな目標までも把握できるようになります。

このステップの実行中に、チームは年間目標を達成するために必要な作業について理解し始めます。こうした改善イニシアチブは、Hoshin Kanri マトリクスの上のセクションにあたります。メンバーはそれぞれイニシアチブの異なる部分を担当するため、各チームや各チームメンバーのマトリクスは見た目が多少異なる場合があります。

5. 年間目標を実行する

ついに、実行する準備が整いました。年間目標は上述した形で小さな目標に分割されるため、チームごとに異なる戦略が出来上がります。しかし、組織の年間目標達成のため、最終的にはすべての戦略が一体となります。

イニシアチブをどのように実行するかは、あなた次第です。その手段としては、シックスシグマの DMAIC モデルやカイゼン手法、PDCA サイクルといった、継続的改善戦略の活用などが挙げられます。

制作がスタートし、結果が出始めると、フィードバックが制作現場から戦略チームへと入ってきます。

6. 月次レビューを実行する

目標や戦略に関する情報がスプレッドシートやスライド資料など、静的なドキュメントに管理される一方で、チームの日々の作業は別の場所で行われているといったことが非常に多いです。その間の点をしっかりとつなぐべく、まずはメンバー全員に共通認識を持たせるための月次レビューシステムを導入しましょう。目標とその達成を目指した作業の状況確認を行い、両者の照準が合っていることを確認します。

これは、Hoshin Kanri 手法を使うと、もっと簡単に行えます。ステップ 5 の年間目標に着手すると、制作の結果が戦略管理チームに入り始めます。この情報を使って、日々の作業から一歩下がり、進捗の現在の管理状況に注目します。何がうまく進行しているか、何を改善できるか、などを確認します。

このプロセスは、プロジェクト管理ツールを使うと、さらに簡単に行えます。たとえば、Asana を使用すると、チームが日々の作業を保管、追跡する同じ場所で目標を作成し、追跡することができます。目標を毎月更新、レビューすることを促す自動のリマインダーを設定することもできます。

7. 年次レビューを行う

12 か月分の作業が完了したら、チームが成し遂げた結果を全体的に確認します。目標は達成できたでしょうか？達成できなかったのなら、次回は何を変えるとよいでしょうか？今年学んだことのうち、どのようなことを次のプロジェクトサイクルで実行できるでしょうか？

前年の教訓を決定したら、またプロセスを開始して、翌年の新しい目標を立てます。これからは、過去の障害や問題点に対処できるよう作戦を変更して、Hoshin Kanri キャッチボールのフローをまた一から行います。

Hoshin Kanri 手法の長所と短所

あらゆる戦略と同様に、Hoshin Kanri 手法にも長所と短所があります。以下に、この手法の長所、そしてこの戦略を実行する際に注意したい点をご紹介します。

Hoshin Kanri 手法の長所

• Hoshin Kanri マトリクスは見やすい。Hoshin Kanri マトリクスは、一見すると複雑に見えますが、一旦慣れると、担当業務を管理し、各イニシアチブと会社の上位目標とのつながりを把握するためのシンプルで効果的な手段として重宝します。

• Hoshin Kanri では大局的な戦略が明確に分割される。 大局的な戦略について話し合う際に Hoshin Kanri マトリクスを使用することで、小さなイニシアチブやそれが会社の大きな目標に与える影響を簡単に確認できます。

• 誰が何を担当しているかが分かる。マネージャーは、Hoshin Kanri マトリクスを使用すると、誰がどのイニシアチブを担当しているかをさっと特定できます。これはメンバーが自分の担当する目標について説明責任を果たすのに役立ちます。

Hoshin Kanri 手法の短所

• Hoshin Kanri マトリクスが効果を発揮するのは、情報が少ない場合に限る。マトリクスに情報を追加すればするほど、表は見づらくなってしまいます。複雑な依存関係や責任範囲を構築している場合、Hoshin Kanri マトリクスはチームにとっての最適な手法ではないかもしれません。依存関係をより具体的にしたい場合は、クリティカルパス法 (CPM) をお試しください。

• Hoshin Kanri は戦略を 4 層でしか具体化できない。チームが目標や戦略を 4 層以上に分割したい場合、Hoshin Kanri 手法では対応できません。プロジェクトをもっと多くのセクションに分割したい場合は、ウォーターフォール手法をお試しください。

• Hoshin Kanri マトリクスは静的である。戦略や担当業務が極端に変更される場合、それに合わせて Hoshin Kanri を変更するのは困難な場合があります。プロジェクトの中で大きな変更を予測している場合は、アジャイル手法を使うのがベストでしょう。

ワークマネジメントツールで Hoshin Kanri をフル活用

Hoshin Kanri マトリクスは、静的なリファレンスとしては便利ですが、目標をリアルタイムに追跡できるツールがあるとさらに便利です。Asana のようなワークマネジメントツールを活用すると、チームの足並みを共通のミッションに向けて揃えることができます。自分たちの仕事が会社全体にどう貢献するのかを明確に把握しているチームは、大きな成果を生み出すことができます。