シックスシグマ: 統計学に基づいた業務改善方法を解説

寄稿者 Sarah Laoyan の顔写真Sarah Laoyan
2024年2月29日
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概要

シックスシグマは、業務改善に役立つ経営手法の 1 つです。統計学をベースにした考え方で、物理的な製品を扱う製造業だけでなく、デジタル製品を制作するテック企業など、幅広い業界で利用されています。この記事では用語の意味や歴史、メリットなどについて解説します。シックスシグマについて知識を深めたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

更新: この記事は、シックスシグマのメリットと用語解説についての記述を含めて 2023年 5月に改訂されました。

開発チームが大規模な製品リリースの最終的な仕上げに取りかかっている様子を想像してみてください。その製品が、テスト段階に到達したとき、コード内に予期せぬバグが見つかってしまいます。最後の最後に発見されたこのバグのせいで、プロジェクトは大きく修正が必要になることでしょう。今後こうした事態を避けるためには、どうすればいいのでしょうか?

その方法として、製造業界で昔から使われている「シックスシグマ手法」を導入するという手があります。

シックスシグマ (Six sigma) とは?

シックスシグマは、組織がビジネスプロセスを改善する際に役立つプロセス改善手法です。

シックスシグマの主な目的は、一定のプロセスを確立することにより、最終製品における品質のばらつきを抑えることにあります。そうすることで、結果、製品に起こる欠陥の量を最小限に抑えられます。

シックスシグマの主な理念は、どのようなプロセスでも、定義、評価、分析、改善、管理できるというものです (一般的に DMAIC 手法と呼ばれます)。シックスシグマによると、すべてのプロセスには、入力と出力が必要です。入力は、チームが行うアクション、出力は、そのアクションが生み出す効果を指します。そうした入力 (アクション) をできるだけ多く管理できれば、出力も管理できるという考えを基本としています。

そもそも「シグマ」とは?

シグマとは、標準偏差を表す統計学用語です。標準偏差とはばらつきの度合いを表すもので、この数値が小さいときは全体のばらつきが小さく、大きいときは平均値から離れている測定値が多くあることを意味します。

もともとの「シグマ」の意味は、100 万回に 3.4 回起こる確率のことを指します。この考え方を生産工程に用いて、不良品の発生率を 100 万個につき 3.4 個未満に抑えようとするのが、シックスシグマの品質管理手法なのです。

シックスシグマはどのように生まれたのか?

シックスシグマ手法は、1986 年に米国モトローラ社にエンジニアとして務めていたビル・スミス (Bill Smith) 氏が作成しました。「シックスシグマ」という用語は、製造プロセスの統計モデルに由来します。基本的に、欠陥のない製品の割合を示す「シグマ (ばらつき)」の評価によって、プロセスの成熟度を特定できるというものです。そして、「シックスシグマ」のプロセスとは、製造された製品のうち、 統計的に欠陥がないと予想される製品の割合が 99.99966% のプロセスのことを指します。

世界的にその名が知られたのは、1990年代になってからです。GE 社 (General Electric 社) の経営者ジャック・ウェルチ氏が全社的にシックスシグマを導入し、利益を上げたことが理由です。製造業だけではなく、金融業やサービス業にも応用できることが知れ渡り、世界中にこの手法と考え方が広まっていきました。現在ではサービス業界やソフトウェアエンジニアリングチームなど、さまざまな業界で活用されています。

【シックスシグマとリーンシックスシグマの違いとは?】

歴史が深まるにつれてシックスシグマの形も変化していき、現在はリーンシックスシグマという手法にも発展しています。もともとはトヨタ自動車の生産方式がルーツとなっており、品質のばらつきと一緒に、業務上の無駄も省くというのが、このリーンシックスシグマの考え方です。

一般的にリーン手法は、無駄、すなわち、製品やプロセスに一切の価値を付加しないあらゆるものを取り除くことを目標としています。そこでリーンシックスシグマ手法では、欠陥を検出することよりも、欠陥の発生を避けることが重視されます。つまり、シックスシグマとリーンシックスシグマの違いは主にその「目標」に現れ、後者は欠陥のある箇所を特定するのではなく、欠陥を発生させないようにすることです。この手法は品質向上と業務効率化が同時に対策できるため、多くの企業から支持されています。


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シックスシグマがもたらすメリットは?

業種を問わずに取り入れることができる汎用性の高さは、メリットの1つです。多業種を取り扱う企業でも会社全体で統一した手法を導入できる上、企業の規模も関係ありません。小規模な企業でも取り組めます。  

そして「どうすればミスを減らせるか」という客観的な目線で課題解決につなげていくため、社内の旧来的な価値観や影響力のある一個人の意見だけが反映されないところもポイントです。 

また、シックスシグマを導入するとスタッフのスキルアップも狙えるでしょう。能動的に業務を改善しようと考える意識が付き、チームの結束力向上やリーダーシップの発達にも結びついていきます。スタッフ間での対話も必須であるため、コミュニケーションスキルが上がることも期待できます。

シックスシグマの 5 つの原則

シックスシグマ手法には、プロセスを分析する際に使用できる主な原則が 5 つあります。

1. 顧客にフォーカスする

シックスシグマでは、顧客 (消費者) に可能な限りの価値を提供することを目標とします。つまり、自分たちの顧客は誰なのか、どのようなニーズを持っているのか、どんな要素が購買意欲をそそるのかといったことを特定するのに多くの時間を注ぐことになります。この原則は、継続的な収入源を重視することが多い SaaS 企業に有効です。顧客の希望やニーズを特定することで、顧客を維持して、継続的に製品を購入してもらう方法をより深く理解できます。

そうするには、チームは、顧客が納得できる品質レベルを理解しなくてはいけなくなるため、顧客の期待に応えたり、それを超えたりすることもできるようになります。品質レベルが把握できれば、それを制作のベンチマークとして活用できます。

2. データを使ってばらつきの発生箇所を発見する

現行の制作プロセスを構成する全ステップをまとめます。それができたら、現行のプロセスに関するデータを分析、収集し、ワークフローの中で最適化できる領域やボトルネックを引き起こしている領域がないかを確認します。

たとえば、情報をチームとどのように共有しているかについて考えましょう。チームメンバー全員に同じ情報が行き渡っているか、メンバーたちは古い文書を参照していないか。プロジェクトに関するすべての情報が一元管理される場所を確立すると、適切な文書を検索するのに費やす時間を最小限に抑えられます。

どの指標を分析すべきか、判断が難しい場合もあります。そんな場合は達成したい目標を特定し、そこから遡って確認していくと簡単に答えが見つかります。たとえば、制作にかかる時間を短縮することが目標であれば、制作プロセスの各ステップの所要時間を分析していくとよいでしょう。


プロジェクトの最新情報を常にリアルタイムで共有し、チーム全体が共通認識を持つために効果的なのが、プロジェクト管理ツールの導入です。情報が大量のメールに埋もれたり、更新されていない Excel シートを参照してしまう状況を避けるには、Asana の導入をおすすめします。直感的で使いやすいツールを、まずは無料でお試しください。

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3. 継続的にプロセスを改善する

制作プロセスを見て行く中で、チームや顧客の価値にならないステップについて検討します。バリューストリームマッピングのようなツールを使えば、プロセスを合理化できる領域やボトルネックを削減できる領域を特定できます。

経時的にプロセスを少しずつ改善していくことは、カイゼンまたは継続的改善として知られています。長期に渡って少しずつ変更を加えていくと、そのうち大きくポジティブな変化が生まれるというのが、継続的改善の理念です。

4. みんなで取り組む

シックスシグマは、チームメンバー全員が貢献できる手法です。ただし、障害を取り除くどころか、さらに増やしてしまうリスクを減らせるよう、シックスシグマのプロセスについて参加者全員をある程度は教育しておくことが必要になります。

シックスシグマは、プロセスがビジネスの各要素にどう影響するかを示す全体像となるため、部門横断チームが参加する際には、特に効果を発揮します。全参加チームの代表者をプロセスに含めると、これから行おうとしている改善や、そうした変更からチームが受ける可能性のある影響を参加者全員に知らせることができます。

5. 柔軟でニーズに応えられるエコシステムをつくる

シックスシグマは、顧客に対してポジティブな変化を生み出すためのものです。つまり、常にプロセスの改善方法を探る必要があり、プロセスへの影響を抑えながらチーム全体がスムーズに対応できるよう、柔軟な姿勢を維持する必要があります。

それは、プロセスが簡単に置き換えられるものでなくてはいけないことも意味します。これは、プロセスを複数のステップに分割すると簡単に行えます。1 つのステップだけに問題がある場合は、プロセス全体ではなく、そのステップだけを修正するだけで済みます。

シックスシグマの関連用語

シックスシグマについて、より深く理解するために知っておきたい重要用語をこちらにまとめます。これらのワードを理解することで、導入のための調査業務がスムーズになるでしょう。

VOC

Voice Of Customer の略語で、「お客様の声」を表します。クレームや要望、問い合わせなど様々な内容を総括し、カスタマーセンターやコールセンター、アンケートなどで主に収集されます。課題方針決定のベースとなり、シックスシグマでは特に重要視するべき要素です。

CTQ

Critical To Quality の略語です。「経営品質が決まる重要要因」を指しますが、VOC を企業側 (商品やサービスを顧客に届ける側) の言葉に言い換えたものと言ったほうがわかりやすいでしょう。実践的な改善策に落とし込むために、VOC を自社が取り組むべき課題へと変換します。

VOC が「配達が遅れないこと」なら、「週平均遅配数の少なさ」などに変換したものが CTQ です。

COPQ

Cost of Poor Quality の略語で、低品質が理由でかかるコストのことです。再検査や人件費などに用いられる「目に見えるコスト」と、品質低下による顧客の喪失などの「目に見えないコスト」の 2 種類が存在します。目に見えないコストの方が重要性が高く、将来的な影響が大きいと言われています。


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シックスシグマの 2 つの手法: DMAIC と DMADV

シックスシグマには、一般的に使用されるプロセスが 2 つあり、それぞれが異なる状況で使用されます。標準的な手法は、DMAIC 手法と呼ばれるもので、既存のプロセスを最適化する必要がある場合に使用されます。もう 1 つの手法は、DMADV 手法と呼ばれており、プロセスが確立されておらず、新しく作成する必要があるときに使用されます。

DMAIC 手法とは?

DMAIC は、各アルファベットがプロセスのステップ (フェーズ) を意味する頭字語で、以下の英単語の頭文字をとったものです。

[inline illustration] The DMAIC method (infographic)

シックスシグマは、この 5 つのフェーズに沿って取り組んでいくのが基本のパターンとなります。

  • Define (定義): VOC から得られた情報を元に、課題を明確化します。この段階で、顧客の希望とニーズを含めた、理想的な顧客像も特定しましょう。また同時に、プロジェクト全体の目標や目的、背景も特定しておくことをおすすめします。

  • Measure (測定): 現行のプロセスの主な要素を測定します。「Define」ステージで確立した目標を使って、現行のプロセスを基準として設定し、そのデータを用いてプロジェクトを最適化する方法を検討します。それと並行して業務プロセスをフローに起こし、資料化することも重要です。数値やフローなど、目に見える形で現状を示し、理解しましょう。

  • Analyze (分析): プロセスを分析し、問題の根本原因を判断して、ばらつきが起きている理由を特定します。データと資料を活用し、徹底的に原因を突き止めましょう。 シックスシグマでは、客観的なデータ活用に重点を置くため、測定と分析に多くの時間を割く傾向が高いです。

  • Improve (改善): プロセスを改善または最適化します。前のステップで実行した分析を基に、新しい将来のプロセスを作成します。つまり、改善されたプロセスのサンプルを作成し、個別の環境でテストすることにより、そのパフォーマンスを確認する必要があります。この際に提示する改善策はコストパフォーマンスなどから考えて、複数の案から最も優れたものを選ぶようにするといいでしょう。あるいは、1 つ 1 つの計画を小規模にして、同時に複数の改善策を実行するケースもあります。

  • Control (管理): 将来のプロセスを管理します。「Improve」ステージで得た結果が、チームの基準に沿っているなら、この新しいプロセスを現行のワークフローに導入します。新プロセスをきちんと定着させ、問題点が起きたらそのたびに改善を繰り返すように管理していきましょう。実行するときは、できるだけ多くのばらつきをコントロールすることが重要になります。これには、統計プロセス管理や継続的モニタリングがよく使用されます。

DMAIC 手法の実際の使い方

プロダクトチームは、顧客の解約率 (顧客が取引を止めてしまう割合) が高くなっていることに気付きました。それ以上の解約を食い止めるべく、チームはシックスシグマの DMAIC 手法を使って、問題を特定し、ソリューションを生み出します。

  • Define (定義): 顧客の解約率が過去 6 か月の間に 3% から 7% へと上昇した。

  • Measure (評価): チームには、見込み顧客がどのようにして実際の顧客になるかという情報はたくさんありますが、顧客になってからの展開についてはあまり情報がありません。チームは、顧客の製品を購入した後の行動について分析、評価することにしました。

  • Analyze (分析): 顧客になったユーザーのその後の行動について確認したところ、新規顧客は既存顧客と比べて、新製品の UI に慣れるのに苦労していることがわかりました。

  • Improve (改善): チームは、顧客に製品の主要な機能と使い方を教える「新規顧客向けオンボーディング」ワークフローを導入することにしました。顧客の規模が大きい場合、チームはカスタマーサクセスチームと協力し、ベストプラクティスの設定と研修の制作を支援します。これによりカスタマーサクセスチームは新規顧客を効果的にトレーニングするのに必要となるすべての情報を得られます。

Control (管理): 顧客の解約率と変更内容が導入された後の顧客の現在の行動の両方をモニタリングします。数か月後、解約率が徐々に低下していることがわかったので、プロセスの変更を維持することにしました。

DMADV 手法

DMADV 手法は、Design for Six Sigma (DFSS) と呼ばれることもあります。DMADV は以下の英単語の頭文字をとったものです。

  • Define (定義): 目標を定義します。 新しく確立するプロセスの目標を決定する際には、事業の目標と理想的な顧客像の目標の両方を考慮することが重要です。

  • Measure (測定): CTQ を評価、特定します。ここでいう CTQ は、完璧な製品を定める特性と考えましょう。このステップでは、新しいプロセスがどのように CTQ の達成に役立つかを特定し、品質に影響すると思われるリスクがあれば、それを付け加えます。

  • Analyze (分析): 分析し、複数の選択肢を作って設計します。新しい制作プロセスを設計するときは、複数の選択肢を用意することが重要です。異なる選択肢を作成したら、それぞれの長所と短所を分析します。

  • Design (設計): 選んだ選択肢を設計します。 前のステップの分析を基に、次のステップに進み、ニーズに一番合った選択肢を導入します。

  • Verify (検証): 設計を検証し、試験的実施をセットアップします。プロセスの導入が済んだら、プロセスオーナーに実行を任せ、プロセスの出来栄えを評価します。プロセスがスタートしたら、チームは DMAIC 手法を使ってプロセスを最適化します。

シックスシグマのベルトとは?

シックスシグマ手法について学んでいると、シックスシグマの資格にはさまざまなランクがあることがわかります。格闘技と同じで、各ランクはベルトの色で区別されます。

[inline illustration] Six Sigma levels (infographic)
  • ホワイトベルト: シックスシグマの初心者は、このステージから開始します。ホワイトベルトは、シックスシグマの資格もトレーニングも必要ありませんが、基本的なフレームワークやガイドラインについては理解していなければなりません。つまり、無駄の削減や品質管理プロジェクトには参加できるレベルです。

  • イエロ―ベルト: シックスシグマの正式なトレーニングをいくつか受けることで、イエローベルトとして正式に認定されます。イエローベルトを持つ人は、ホワイトベルトを持つ人よりも深く戦略に貢献できます。イエローベルトは、企業の上層部による問題解決や分析をサポートします。

  • グリーンベルト: グリーンベルトの認定を受けると、自ら戦略を立て、小規模なプロセス改善手法を実践できます。

  • ブラックベルト: シックスシグマのブラックベルトを獲得した人は、プロセスを分割し、これまでに紹介した他のベルトでは対応しきれないレベルの複雑なプロジェクトに対応できます。事業利益に影響を与えかねない大規模な変更を管理する技術がしっかりと備わっています。

シックスシグマのランクを上がっていくための非常に効果的な方法の 1 つとして、認定コースを受講するという手があります。認定の統一規格はありませんが、このコースは、シックスシグマのプロセスの要点と、それを日々の作業に応用する方法をしっかりと学べるように制作されています。

シックスシグマでワークフローを改善するときのヒント

業務改善に取り組むには、シックスシグマを導入し効果的な対策方法を実践することがおすすめです。データの収集、原因分析を重要視するため、全体を通して客観的な目線で取り掛かることができます。

ワークフローのブレインストーミングや分析を行う際は、Asana のようなビジュアルプラットフォームを使うのが最適です。Asana のタイムライン機能を使用すると、制作プロセスの各ステップを可視化できるため、それぞれを特定の担当者に割り当てることができます。

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チームのワークフローを改善したいという方には、チームをつなぎ、目標を管理できるソフトウェアを使用することを何よりもおすすめします。Asana のワークフロー機能は、仕事の仕方を管理し、特定の作業を自動的に処理するのに便利です。また、ワークフローに変更があった際には、その内容を簡単に他のチームメンバーに伝えることができるほか、リアルタイムに調整を加えたり、チーム全体が信頼できる唯一の情報源を作成したりできます。

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