「戦略」と「戦術」という言葉はもともと軍事用語ですが、現在ではビジネスシーンでも頻繁に使われています。この両者の違いを正しく理解し、実務で効果的に使い分けられていますか?
本記事では、戦略と戦術の意味と定義、両者の違い、ビジネスでの活用方法を具体例とともにわかりやすく解説します。さらに、効率的に戦略・戦術を策定するためのフレームワークや、実際の企業事例も紹介するので、参考にしてみてください。
更新: この記事は、戦略と戦術策定時に役立つフレームワークと企業の具体例に関する記述を含めて 2025年 9月に更新されました。
【この記事でわかること】
戦略と戦術の違い
ビジネスにおける両者の関係性と使い分け方
ケース別具体例と企業事例を通じた理解
効果的に策定するためのポイントと活用できるフレームワーク
混同されやすい「戦略」と「戦術」という用語は、もともとは『孫子の兵法』に由来する軍事用語です。以来、軍事だけでなく、ビジネス戦略など、さまざまな場面で使われてきました。ビジネスを成功に導くために必要な「戦略」と「戦術」の違いを、まずはチェックしましょう。
業務とワークフローを全社の目標につなげ、明確な方向性と大きな成果を組織全体に広げましょう。
戦略とは、長期的な目標を達成するために描く大枠の方向性や計画を指します。経営戦略やマーケティング戦略といった言葉のとおり、組織やチームが「何を目指すのか」「どの方向に進むのか」を示すものです。つまり戦略は、ゴールに向かうための地図やコンパスのような存在であり、成功への道筋を大局的に描くことがポイントです。
記事: 目標と目的の違い: プロジェクトマネージャーのためのガイド戦術とは、戦略を実行に移すための具体的な行動や手段を指します。ビジネスの文脈では、戦略で定めた方向性や方針を実現するために、チームや個人が日々行う施策・オペレーションが戦術にあたります。
チェスの例で考えると、戦略は「相手より優位に立つための駒の配置計画」であり、戦術は「その計画を実現するための一手一手の指し方」、すなわち具体的な行動です。
『孫子の兵法』で、戦略と戦術について孫子はこのように書いています。「私が勝利した戦術はみな理解しても、勝利の要因となった戦略を理解できる者はいない。」孫子は、戦術は具体的でわかりやすい一方、包括的な戦略も同じくらい重要であると説いています。重要なのは戦略と戦術のどちらをとるかではなく、戦略と戦術の両方を操ることです。両者は同じコインの両面だと考えましょう。目標の達成にはどちらの面も必要なのです。
戦略だけで目標に到達しようとしても、どこにもたどり着けません。というのも、戦術こそが、目標に至るための具体的なアクションアイテムだからです。戦略のみに頼るチームは、目標を達成する計画を立てているだけで、そうした目標の達成に必要な仕事ができていないことになります。
一方、戦術だけでビジネスの目標を達成することも不可能です。戦略のない戦術は、あっという間に無目的な仕事に変化してしまいます。戦略はつまり「目標達成へのシナリオ」です。シナリオが無いと、メンバーたちは戦略的な目標が見えず、めいめい勝手な行動をとることになります。短期的には、仕事をしても成果につながらないと感じるようになり、長期的には、仕事へのいらだちや燃え尽き症候群、職場への不満などへと発展することもあります。
ビジネスの成功や目標達成のポイントは、戦略と戦術を組み合わせることと言えます。では戦略と戦術、まずどちらから手掛ければいいのでしょうか?
理想的でおすすめなのは、戦略、戦術の順番です。まずは戦略を立てることからスタートし、それからその戦略実現のための戦術を策定するというフローを組み立てましょう。順番を逆にしてしまうと、余計なコストやタイムロスにつながる可能性もあります。
戦略と戦術は、どちらか一方ではなく両方をバランスよく組み合わせることが重要です。しかし、実際の業務では「戦略を立てたものの戦術に落とし込めない」「戦術が散漫になり戦略と結びつかない」といった課題が多く見られます。
こうした課題を解決するには、戦略 (方向性) と戦術 (具体的な行動) を一元的に管理できるプラットフォームが有効です。
Asana なら、目標からプロジェクト、個々のタスクまでをシームレスに結びつけ、チーム全体が同じ方向を向いて行動できます。
Asana を無料で試すビジネス目標を達成するためには、優れた戦略とスマートな戦術を立てることが必要です。では戦略と戦術が実際どのように使われているのか、両者の違いがよくわかる例を見てみましょう。ここではチーム別にケースを分けて考えてみます。
戦略 | 人事面接で、テクノロジー分野において歴史的少数者のコミュニティから採用候補者を 20% 増やす。 |
戦術 | ・STEM 教育に着目している歴史的少数者コミュニティに出資する。 ・ブートキャンプや職業専門学校など、その他の教育を受けている学生のために機会を創出する。 ・プラットフォームに、少数者コミュニティをターゲットとする募集職種を定期的に掲載する。 |
戦略 | トライアル登録数を 30% 増加させる。 |
戦術 | ・50% スクロール率で無料トライアルのポップアップを表示し、ウェブページでの認知度を高める。 ・トライアル登録毎に、無料の電子書籍ダウンロードサービスを提供する。 ・SNS マーケティングを通して、トライアル登録のプロモーションを行う。 |
戦略 | サイトページの読み込み速度を 1 秒短縮する。 |
戦術 | ・ページの読み込み速度に影響している余分なコードを特定し、代替の方法で対策する。 ・ページ上の画像サイズを 1MB 未満に削減する。 ・ページのリダイレクト回数を削減する。 |
戦略と戦術の違いを明確にしたところで、次はそれぞれどのように練ればいいかを考えてみましょう。まずは戦略を立てるときに考慮すべきポイントをいくつか挙げてみます。もしあなたが経営者やプロジェクトマネージャーなど、トップに立ってメンバーを率いる立場なら、チームにしっかりと目標達成への方向性を示すことが重要です。
優れた戦略は、明確に定義された目標をもとに設定されます。何を達成すべきか正確に知っていると、有効な戦略を立てるのも非常に容易になるのです。目標を明確に定義することは、長期戦略を立てる大局的な計画プロセスの軸になります。戦略とビジネス目標を同時に計画すれば、計画プロセスを簡略化できるでしょう。一方、最終目標がないまま戦略を立てようとすることは、コースを知らずにレースに出ようとするようなものです。
記事: ビジネス目標の設定: 成功するビジネスへの最初の一歩Asana で目標を設定し、達成する優れた戦略は、よく練られ、計画され、非常に詳細なリサーチに基づいています。強力な長期戦略を立てるなら、過去の経験から収集した情報やデータを今後の意思決定プロセスに生かすことが重要です。
たとえば、ビジネスに季節性がある業界があります。こうした条件を自社の有利に活かす方法を知っていることは、過去のデータをうまく活用する、優れた戦略的思考の好例です。
戦略の成功は、期待する結果が得られるかどうかで決まりますが、戦略が計画通りに進まない場合はどうするかを前もって考えておくのも重要です。ここで登場するのがコンティンジェンシープランです。戦略にコンティンジェンシープランを組み込むことで、障害が起きた場合の計画を立てられます。プランによって、チームはそうしたトラブルを乗り越える際に取るべき対策を把握できるので、プロジェクトが完全に頓挫することを回避できます。
次に、優れた戦術を立てるときに考慮すべきポイントを考えてみましょう。いくら効果的な戦略を立てられても、それに伴う手段があやふやだと目標達成への道のりは険しくなります。ひとつひとつ確認して、戦術を練るときの参考にしてみてください。
長期計画である戦略に対し、戦術は小さな目標をクリアしていくための短期的なステップです。戦術を計画することは、戦略計画を短期のアクションに分解するプロセスと言えます。
記事: 短期目標の設定が重要な理由 (実例付き)今とっている戦術が戦略にどう貢献しているかよくわからない場合は、その戦術が戦略に合っていない可能性があります。戦術は戦略実現のために練られた手段です。つまりあなたが取り組む仕事は、あなたが達成したい目標に、明確に貢献するものでなければなりません。
目標設定のフレームワーク、OKR を用いれば、短期的戦術が長期ビジョンにどう結び付くかがよくわかるでしょう。OKR には主な目標が 1 つあり、それを達成するために主要な結果をいくつか設定していきます。チームがとる戦術は、主要な結果を達成するために正しく貢献するのです。
Asana を使って OKR を設定したい場合はこちらの関連記事『目標と主要な結果 (OKR) テンプレート』をご覧ください。
戦術は、決まった期間内で実行することに向いています。多くの目標設定戦略と同じく、戦術も締め切りを設定することによって、一定期間内に確実に完了できます。実行可能で期限のある戦術を作成するには、SMART な目標のメソッドを試してみましょう。
戦略を策定する際には、まず自社の強みや弱みを把握し、外部の市場環境や競合他社の動きを理解することが欠かせません。こうした分析を通じて、自社が発揮できる優位性を見極めることができます。代表的なフレームワークは以下のとおりです。
自社の強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、市場環境から生じる機会 (Opportunities)、競合他社などによる脅威 (Threats) を整理します。これにより、どの領域で優位性を確立できるかを検討できます。
記事: SWOT 分析: 知っておくべきすべてのこと (実例付)顧客・市場 (Customer)、競合他社 (Competitor)、自社 (Company) の 3 つの視点から環境を分析し、競争上の優位性を導き出すフレームワークです。特に新規市場に参入する際に有効です。
記事: 3C 分析とは?意味、メリット、やり方などをわかりやすく解説政治 (Political)、経済 (Economic)、社会文化 (Socio-cultural)、技術 (Technological) といったマクロ環境を把握し、長期的な市場環境の変化を戦略に取り込む手法です。
記事: PEST 分析とは何か?外部環境分析を行いビジネスを成功に導くこれらのフレームワークを組み合わせることで、自社にとって最適な戦略の方向性を明確にできます。
戦術の策定では、戦略で定めた方針を「具体的なアクション」に落とし込み、チームレベルで実行可能にする必要があります。以下のフレームワークが役立ちます。
目標を具体的 (Specific)、測定可能 (Measurable)、達成可能 (Achievable)、現実的 (Realistic)、期限がある (Time-bound) ものに設定し、戦略を実務に変換します。
記事: よりよい SMART な目標作成のためのヒントと実例戦略目標から逆算して数値目標を分解し、部門やチームごとのアクションにつなげます。競合他社に勝つための優位性を維持するには、KPI を的確に設計することが重要です。
プロジェクトを小さな作業単位に分け、誰がどのような行動を取るか明確にします。これにより、市場環境が変化しても柔軟に対応できる体制を構築できます。
戦略フレームワーク: 市場環境や競合他社を分析し、自社の強みを活かして優位性を築くためのもの
戦術フレームワーク: 戦略を具体的な行動に落とし込み、日々の業務で実行するためのもの
両者を一貫して扱うことで、戦略が机上の空論に終わらず、戦術も目的を見失わずに進められます。
戦略と戦術を整理するフレームワークを理解しても、実務で一貫して管理するのは簡単ではありません。
Asana を使えば、戦略の方向性から戦術の具体的なタスクまでを一元管理でき、チーム全体で効率的に実行できます。
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ここまで戦略と戦術の違いや策定時のヒント、実務で活用できるフレームワークを解説してきました。では、実際の日本企業ではどのように戦略を立て、それを戦術として具体的な行動に落とし込んでいるのでしょうか。
ここでは、サントリー株式会社と株式会社ユーグレナの事例をもとに、戦略策定から施策実行までの具体的な取り組みを紹介します。
サントリーは、日本を代表する食品飲料企業で、経営理念に「水と生きる」という価値観を掲げ、経営ビジョンとして健康、環境、文化に貢献する企業を目指しています。
サントリーは長期的な事業計画の中で、国内外市場でのポジショニングを明確化し、健康志向や高付加価値商品の開発に注力。特に、健康飲料市場におけるコストリーダーシップ戦略と差別化戦略を組み合わせることで、安定した収益を確保しています。
戦略を実現するために、サントリーは以下のような具体的な施策を立てています。
新商品の商品開発と発売スケジュールの最適化
ターゲットとなる顧客層や見込み客に向けた Web 広告や SNS マーケティングの活用
国内外の販売チャネルでのプロモーションとキャンペーン
このように戦略で定めた方向性を具体的な行動に落とし込み、実務レベルで効果を上げています。
バイオベンチャー企業のユーグレナは、微細藻類「ユーグレナ」を活用した健康食品と化粧品の開発を行う中小企業です。
ユーグレナは、持続可能な社会の実現を経営理念に掲げ、長期的な経営ビジョンのもとで、バイオ事業を中心とした成長戦略を策定しています。
戦略を実現するため、以下の具体的な戦術を展開しています。
BtoC 向けに Web 広告や EC サイトを活用した販売促進
健康食品市場での顧客層分析に基づいた新商品企画
学術研究や自治体と連携した啓発イベントの実施
事業承継や次世代経営人材の育成を含む長期的な組織強化
これらにより、ユーグレナは戦略で定めた方向性を具体的な施策に落とし込み、事業成長につなげています。
戦略と戦術の違いについて解説し、それぞれの具体例を紹介しました。最終的な目標達成のために、有効な戦略と戦術の策定は必須です。そのときに考慮すべきポイントもいくつかご紹介したので、ぜひ参考にして、効果的な戦略、戦術を立てましょう。
優れた戦略そして戦術への第一歩は、きちんと整理された計画から踏み出せます。ビジネス目標を整理しておく方法を探している方は、ワークマネジメントツールの使用を検討しましょう。ワークマネジメントソフトウェアを使えば、日々の戦術と長期戦略を簡単に結びつけることができます。また、すべてのチームメンバーがアクセス可能なツールを使えば、情報のシェアもスムーズに行え、お互いがサポートし合えるコラボレーション体制も整うでしょう。
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