フィードラーのコンティンジェンシー理論によれば、リーダーが能力を発揮するためには、リーダーシップのスタイルが状況に適合している必要があります。このモデルを使って、自分のリーダーシップのスタイルを突き止め、リーダーシップを発揮するべき状況を評価し、自分が適切なリーダーであるかを判断してみましょう。この記事ではこの理論を細かく解説し、理論を応用してよりよいリーダーになる方法と理論の具体例をご紹介します。
更新: この記事はコンティンジェンシー理論が生まれた背景に関する記述を加え、2024年 12月に改訂されました。
リーダーの資質と言われて、何が思い浮かびますか?スーツを着てチェックリストを手にした、タフで断固とした誰かでしょうか。それとも、チームを励ましてよりよく協力できるように導く、対人スキルの達人でしょうか。フィードラーのコンティンジェンシー理論によれば、このどちらのタイプも優れたリーダーになり得ます。というのも、リーダーの優秀さは、リーダーシップスタイルとその場の状況がマッチしているかどうかで決まるからです。
フィードラーは、リーダーシップのとり方を「変える」のは困難であるため、チームに貢献するリーダーになるには自分のリーダーシップスタイルを「見極める」ことが不可欠だと論じます。自身のリーダーシップスタイルをよりよく理解し、会社のために最善な決断をするために、ここではフィードラーのモデルを細かく見ていきましょう。
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フィードラーのコンティンジェンシー理論 (Contingency theory) は、フィードラーのコンティンジェンシーモデル、あるいはフィードラーのリーダーシップ論とも呼ばれ、唯一最善のリーダーシップスタイルというものは存在しないと主張します。この理論では、ある状況で有効なリーダーシップスタイルは、その状況に即応するスタイルであると考えます。
条件適合理論は、リーダーの役割を「部下が目標を達成できるようにサポートし、進むべき道筋を示し、障害を取り除いて、やる気を高めること」と定義しています。この理論では、リーダーの行動スタイル (指示型、支援型、参加型、達成志向型) が状況や部下のニーズに応じて調整されるべきだとされています。一方、コンティンジェンシー理論は、リーダーのスタイルは一貫しており、効果的かどうかは状況との適合によると主張するものです。
SL 理論 (状況的リーダーシップ理論) は、部下の成熟度 (能力と意欲の度合い) に基づいてリーダーがリーダーシップスタイルを柔軟に調整することを提唱する考え方です。スタイルは指示型、説得型、参加型、委任型の 4 つに分類されます。これに対し、コンティンジェンシー理論では、リーダーのスタイルを固定的とし、状況要因 (リーダーと部下の関係、タスク構造、リーダーの地位権力) に応じたリーダーと状況の適合が成功の鍵であるとします。SL 理論は部下への適応性をより強調するものと言えるでしょう。
この理論は 1960年代、オーストリアの心理学者フレッド・フィードラー教授が提唱しました。リーダーシップに関する理論はそれまでもさまざま存在しており、代表的なもので「リーダーシップ資質論」(リーダーシップを持つ人は生まれながらに特性を備えていると主張) や「リーダーシップ行動論」(リーダーの行動パターンを分析し、効果的なリーダ0シップの行動を特定しようとする) があります。
そのような中、フィードラーはリーダーの性格や特性について研究した結果、リーダーシップスタイルはリーダーの人生経験を通じて培われるため、それを変えることは不可能ではないにせよ非常に困難であると結論づけました。
これを根拠に、フィードラーは、仕事のリーダーはそれぞれの持つスキルセットと、その状況で必要とされる条件に基づいて選択する必要があると考えました。リーダーと状況のベストマッチを実現するには、まずリーダーが自分の生まれ持ったリーダーシップスタイルを理解する必要があります。次に、リーダーは自分のスタイルが目の前の状況に適合しているかどうかを評価します。言い換えれば、フィードラーはリーダーが成功できるかどうかは、次の 2 つの要素によって決まると考えたのです。
生まれ持ったリーダーシップスタイル
状況好意性 (状況の好ましさ)
フィードラーが提唱したコンティンジェンシー理論は言い換えれば、リーダーが環境の変化に対応し、それに応じてスタイルを変えていくという意味で「状況適合理論」とも呼ばれます。
フィードラーのコンティンジェンシー理論は非常にシンプルで、リーダーシップスタイルをその状況で求められるニーズと比較するものです。このモデルを構成する各要素についてさらに詳しく見ていきましょう。
リーダーシップスタイルを特定しやすくするために、フィードラーは最も一緒に働きたくない同僚をどう評価するかという「Least Preferred Coworker (LPC) 尺度」を考案しました。
さまざまな項目について、最も苦手な同僚を好意的に評価するなら、あなたは対人関係志向型のリーダーです。一方同じ基準について、そうした同僚への評価が厳しい場合は、課題志向型ということになります。
まとめると次のようになります。
高 LPC リーダーは、対人関係志向型のリーダー。
低 LPC リーダーは、課題志向型のリーダー。
対人関係志向型リーダーが得意とするのは、人間関係の構築、チームのシナジーの形成、メンバー間の衝突の解決です。課題志向型リーダーは多くの場合、プロジェクトやチームを運営して、効果的かつ効率的にタスクを達成することに長けています。
こうした 2 つのリーダーシップスタイルの根拠は非常にシンプルです。
苦手な同僚を好意的に評価するということは、たとえ一緒に働こうとは思わない人の中にも、長所を見出すタイプであることを意味します。
苦手な同僚に厳しい評価をするということは、他の特徴よりも効率や効果を重視しているため、そうした同僚の果たす貢献が見えにくいことを示しています。
チームを率いる方法に唯一の正解はありません。組織全体としてみれば、課題志向型が好まれるかもしれませんし、チームメンバーはどちらかといえば、対人関係志向型リーダーを好むでしょう。これは、離職した人の 79% は、仕事を辞めた第一の理由に、正しく評価されなかったことを挙げていることからも窺えます。ここで重要なポイントは、自分がどのようなスタイルを持っているのかを理解することです。
次に、フィードラーモデルでは状況の評価を行います。シチュエーショナルコンティンジェンシー理論、あるいはシチュエーショナルリーダーシップ理論とも呼ばれ、リーダーシップが必要な状況はそれぞれ異なり、その状況に適合したリーダーが求められるという考え方です。状況好意性、つまり状況の好ましさは、リーダーがどれだけの影響力と権限を持つかによって決まります。
状況好意性は、次の 3 つの変数によって決定されます。
リーダーとメンバーとの関係
タスクの構造
リーダー権限の強さ
リーダーとメンバーとの関係とは、端的に言えば両者の信頼関係です。あなたのチームはあなたをリーダーとして信頼していますか?信頼度が高ければ、リーダーとメンバーとの関係は良好であり、状況好意性も高いことになります。
タスクの構造とは、プロジェクトを完了するために必要なタスクの明確性です。タスクの構造が優れていれば、より好ましい状況となります。タスクがわかりやすく明確であるほど、その状況におけるタスクの構造は優れています。逆にタスクが曖昧なら、タスクの構造が劣っていることになります。
最後にリーダー権限の強さとは、リーダーがチームに対して持つ権限を指します。チームメンバーに報奨や罰を与えたり、指示を出したりできるなら、リーダー権限は強いと言えます。当然、この権限が強いほど状況好意性は高いことになります。
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Asana でタスクの管理と優先度設定をするここまででフィードラーのコンティンジェンシー理論の基本が理解できたでしょうか。次は、自身のリーダータイプを確認して、このモデルを実地に応用してみましょう。
次のセクションでは、あなたの生まれ持ったリーダーシップスタイルを特定して、現在の状況を評価する手順を解説します。フィードラーによれば、これを行って初めてリーダーとして能力を発揮でき、また、状況に応じて自分がリーダーになるべきか、誰かに託すべきかの正しい判断が下せるようになります。
あなたが生まれ持ったリーダーシップスタイルを判断するには、前掲の LPC 尺度に戻る必要があります。あなたが一緒に働く上で最も苦手な人を思い浮かべてみてください。下の表をコピーして別の文書に貼りつけ、その苦手な同僚をあなたがどう評価するかに基づいてスコアをつけていきましょう。
自分のリーダーシップスタイルを理解することは、あなた自身にもチームにも非常に有益です。スコアを甘くしたくなるかもしれませんが、リーダーシップスタイルを正確に理解するために正直に答えるようにしてください。
否定的 | スコア | 肯定的 |
---|---|---|
不愉快 | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 感じがよい |
拒絶的 | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 受容的 |
ピリピリした | 1 2 3 4 5 6 7 8 | リラックスした |
冷たい | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 温かい |
退屈 | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 興味深い |
陰口が多い | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 信用できる |
非協力的 | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 協力的 |
敵対的 | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 支援的 |
閉鎖的 | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 開けっ広げ |
不誠実 | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 誠実 |
不親切 | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 親切 |
思いやりのない | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 思いやりのある |
信頼できない | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 信頼できる |
陰気 | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 陽気 |
けんか腰 | 1 2 3 4 5 6 7 8 | 協調的 |
上記のテストを完了したら、マークしたすべての値を加算して LPC スコアを計算しましょう。スコアに基づいて次のように判断します。
スコアが 73 以上 (高 LPC スコア) の人は、対人関係志向型リーダーです。
スコアが 54 以下 (低 LPC スコア) の人は、課題志向型リーダーです。
スコアが 55 ~ 72 の場合、対人関係志向型と課題志向型の両方の資質を持ったリーダーということになります。どちらのスタイルにより近いかを決めるには、ほかのリーダーシップ理論に当たってさらに検証してみましょう。
特定の環境におけるリーダーシップの有効性を判断するために、フィードラーは 3 つの問いによって状況好意性を評価することを提案しています。
次の問いに、1 ~ 10 (10 が最高評価) の範囲でスコアをつけましょう。
リーダーとメンバーの関係は、良好かつ互いへの信頼に基づいている (10) か、あるいは険悪で互いへの信頼がない (1) か?
手元のタスクは明確で整理されている (10) か、あるいわかりづらく、無秩序 (1) か?
チームに対するリーダーの権限や影響力は強い (10) か、弱い (1) か?
状況を自分の主観だけで判断しないようにしましょう。グループのメンバーに同じ問いに匿名で答えてもらい、すべての回答の平均を算出することで、状況好意性を正しく把握できます。チームの意見を求めることは、チームの自信と力を引き出し、士気を高める上でも非常に有効です。
自分のリーダーシップスタイルと状況好意性が把握できたら、その状況におけるリーダーとして自分の適性を判断します。
課題志向型リーダーは、非常に好ましい状況や、まったく不利な状況に適しています。このタイプは極端な条件でこそ、チームに対して最大の貢献を果たします。
対人関係志向型の場合、ほどほどに好ましい状況下でのリーダーに向いています。
下表は、各リーダーシップスタイルに最も適合する、さまざまな条件を一覧にしたものです。
それではより注意を要する場面について考えてみましょう。ほどほどに好ましい状況での課題志向型リーダーや、非常に好ましい、あるいは厳しい状況での対人関係志向型リーダーは、リーダーシップスタイルがその状況に合っていない可能性があります。ただしそうした場合にも、チームを成功に導く手段はあるので心配はいりません。
フィードラーによれば、リーダーシップスタイルは固定されており、変更はできません。つまり、リーダーシップスタイルが状況に適していなければ、そのリーダーはふさわしい人にリーダー職を託す必要があるかもしれないということです。
自分のスキルセットではある状況に対応できないと認めることは簡単ではありませんが、誰かにリーダー職を委ねることは恥ずかしいことではありません。実際、職務を人に任せられることは、優秀なリーダーにとって必要な資質です。あなたがマネージャーなら、自分とは違うリーダーシップスタイルをもつチームメンバーを昇格させ、必要に応じてチームの監督を任せることを考えましょう。部門横断プロジェクトの統括者なら、部門横断チームの中にその状況に適したメンバーがいないか探してください。
記事: 任せ上手なマネージャーになる 10 のヒントリーダーシップスタイルが目の前の状況にマッチしていない場合、チームを成功に導くもう一つの方法が、状況のほうを変化させることです。ここでは、状況好意性をあなたのスキルセットに合わせる方法をいくつかご紹介します。
リーダーとメンバーの関係を改善する。リーダーとメンバーの関係を改善することで状況を変えられる場合、チームに対する透明性を高めることや、チームメンバーに新たな役割を任せることを試してみましょう。透明性についてのチームの意見を気にしているリーダーは、全体の 60% に上ります。可能な限り情報開示に努めることによって、リーダーはチームメンバーの自分への信頼に確信を持てるようになり、その結果リーダーとメンバーの関係が改善します。
タスクをより明確にする。タスクが曖昧なのは、単純に仕事の性質上の問題なのか、それともプロセスを整理する必要があるのかを考えます。チームにとって取り組みやすくなるようにタスクの概要をまとめるようにしましょう。
リーダーの権限を強化する。権限や影響力を高めることで、チームを指導しやすくなる場合は、自分の主張をまとめて上位の管理職に説明しましょう。これがきっかけとなり、さらに上のポジションへと昇進できるかもしれません。
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ここまでは、フィードラーモデルの理論について解説してきました。次に、現実に起こりうるシナリオに基づいて、組織で運用した場合にどうなるかを見ていきましょう。
あなたはテック関連のスタートアップ企業の副マネージャーとして採用されたばかりです。12 名のチームが 1 年以上、連携して業務を行っています。以前からのマネージャーがあなたを採用したのは、会社の戦略を改善するためです。
リーダーとメンバーの関係は険悪。結束力の高い従来からのチームに新たにリーダーとして任命されたため、ある程度の摩擦や不信感は避けられません。
タスクの構造が不明瞭。会社はまだスタートアップの段階にあり、あなたが採用されたのはタスクの構造やプロセスを確立するためです。現段階では、全員がばらばらにあらゆる業務に当たっています。
リーダー権限が弱い。より強い権限を持つマネージャーがもう一人いて、特にチームに関連した決定など、あなたの判断を覆すことができます。
フィードラーのコンティンジェンシー理論に従えば、このシナリオで必要なのは課題志向型リーダーです。状況好意性が非常に低いため、対人関係志向型リーダーは、何をするにもかなり苦労するはずです。
あなたは、務めているデザイン会社でグラフィックデザイン部門の部門長という新しい役職に昇進しました。この会社で 5 年働いており、昇進した理由は主に、チームの評価が高いことです。
リーダーとメンバーの関係は良好。あなたは数年にわたって、チームとの強固な関係を築いています。関係は非常に良好で、チームはあなたにさらに上級職に就いてほしいと願っています。
タスクの構造はそれなりに明確である。チームには製品について工夫する一定の権限がありますが、実績のある企業なので、タスクの構造やプロセスはかなり明確に決まっています。
リーダー職の権限は低い。あなたは、経験や能力を生かしてチームを支援するために上級のポジションに昇進しましたが、採用や解雇といった管理職としての権限はありません。
フィードラーのコンティンジェンシー理論に従えば、このシナリオに適しているのは対人関係志向型リーダーです。ほどほどに好ましい状況ですが、あなたには大きな変化を起こすほどの権限はありません。
フィードラーのコンティンジェンシー理論からは、さまざまな貴重な洞察が得られますが、これは一つの理論にすぎないことに注意が必要です。この理論をリーダーを決める際の唯一絶対の根拠にすることは避け、他の考え方によって補完するようにしてください。
フィードラーのコンティンジェンシー理論のメリットには次のようなものがあります。
リーダーのスキルが有効な状況とそうでない状況を簡単に判断できる。
リーダーにとって自分を振り返る機会となる。自己認識力はチームのために決定を下すリーダーにとって欠かせない資質である。
多くのリーダーシップ理論のようにリーダー自身に焦点を当てるだけでなく、状況を考慮に入れている。
LPC と状況好意性は比較的容易に算出でき、理論としてわかりやすい。
フィードラーのコンティンジェンシー理論に対する批判には次のようなものがあります。
あまりにも柔軟性に乏しい。この理論によれば、状況を変えられなければ、リーダーシップを手放すほかに手段がない。
LPC テストの中央のスコア帯に当たるリーダーはどう振る舞うべきか不明確である。この理論は、本質的には自分で探り出すことを求めているに過ぎない。
自己認識は信頼性に欠ける場合もある。LPC 尺度の測定で自己認識に努めたとしても、たとえ無意識にせよ、エゴや偏見によって、正しい判断が妨げられる可能性がある。
この理論によって、リーダーが自分のリーダーシップスタイルと状況が合っていないと考えた場合、実際は適合していて優れた仕事をしていたとしても、リーダーシップを発揮できなくなる。
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チーム内で効率的にコミュニケーションを取るには?リーダーシップに関するフィードラーのコンティンジェンシー理論は、リーダーシップが画一的ではないことを再認識する上で非常に有効です。チームの成果が思うように上がらなくても、必ずしもリーダーの能力不足を意味するわけではありません。それは、現在の状況や組織構造において、あなたのリーダーシップスタイルがチームのニーズや多様性に最適化されていない可能性があるだけです。この理論は、組織論や人材育成のノウハウを見直す際にも活用できます。
リーダーシップスタイルや状況好意性の違いに関わらず、どんなチームにもコミュニケーションを円滑に行い、組織の目標を達成するには、適正なツールやシステムが必要です。たとえば、特定のタスクの担当者が誰で、いつまでに行うかを明確にコントロールすることで、チーム全体の連携を強化し、遅延などのリスクを軽減できます。どのような規模のチームにおいても、適切なツールとリーダーのあり方が成功への重要要素と言えるでしょう。
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