ディープラーニング (深層学習) とは、人間がコンピュータ (AI) に学習させる方法 (機械学習) のひとつです。数百もの大量のデータを与えることで、コンピュータ自身がそのデータの中に潜むパターンやルールを 「発見」 し、学習します。本記事では、ディープラーニングについて、そして企業での活用方法について説明しています。
ディープラーニングという言葉を耳にしない日はないかもしれません。AI の進化を牽引するこの技術は、私たちの生活を劇的に変えつつあります。しかし、「結局、ディープラーニングって何なんだ?」と感じている方も多いのではないでしょうか。
このセクションでは、ディープラーニングの基本や仕組み、そしてなぜ注目されているのかを、分かりやすく解説していきます。
業務とワークフローを全社の目標につなげ、明確な方向性と大きな成果を組織全体に広げましょう。
ディープラーニング (深層学習) とは、人間がコンピュータに学習させる方法 (機械学習) のひとつです。AI にデータを教えるとき、機械学習や教師あり学習、教師なし学習、強化学習など、異なる方法を単独で、もしくは掛け合わせて教えます。
従来のプログラミングでは、開発者が一つ一つのルールを具体的に指示する必要がありました。例えば、猫の画像をコンピュータに認識させたい場合、従来の方式では 「耳が尖っていて、ひげがあり、しっぽがあるものが猫」 といった具体的な特徴を人間が定義する必要がありました。
しかし、ディープラーニングは、数百万枚の猫の画像のような大量のデータを与えることで、コンピュータ自身がそのデータの中に潜むパターンやルールを 「発見」 し、学習します。
すると 「これは猫らしい」 「これは猫ではない」 という判断基準を自動的に編み出すことができるのです。
ScienceDirectによると、ディープラーニングの歴史は1950年代に始まり、進化を遂げてきました。
時代 | 出来事 |
1940 - 1960年代 | 1943年に神経生理学者マッカロックとピッツが人工ニューロンモデルを提案。人間の脳を数学的に再現しようとする最初の試みであり、後のニューラルネットワーク研究の礎となった。1958年にはローゼンブラットが 「パーセプトロン」 を開発し、コンピュータがデータから学ぶ概念を実証。 |
1970 - 1980年代 | パーセプトロンの限界が指摘され、AI 研究は一時停滞する。「第一次 AI の冬」 が訪れるが、この時期にニューラルネットワーク理論の基礎研究が進み、次世代の多層モデル開発の土台が整えられた。 |
1980 - 1990年代 | 誤差逆伝播法 (バックプロパゲーション) が1986年に再評価され、多層ネットワークの学習が可能になる。これにより AI 研究が再び注目を集め、「深層構造を重ねることで複雑な特徴を捉える」 というディープラーニングの核心が形成された。 |
2000年代初頭 | インターネットとビッグデータの普及、および GPU (Graphics Processing Unit) 計算の進化により、大規模データを扱う環境が整備された。これがディープラーニングの本格的な実用化への準備段階となった。 |
2010年代 | ImageNet を契機に AlexNet が登場し、畳み込みニューラルネットワーク (CNN) が画像認識で圧倒的な成果を達成。VGG や ResNet などのモデルも登場し、ディープラーニングが AI ブームを牽引する時代に突入した。 |
2020年代 | Transformerの登場以降、自然言語処理が大幅に進化し、自己教師あり学習や拡散モデル (Diffusion Model) など生成 AI 分野の普及が加速。テキスト・画像・音声を横断的に扱うマルチモーダル AI が急速に広がった。 |
2025年以降 | 出力層の設計・温度パラメータの調整・汎化性能の改善など、モデルの精度と効率性を両立させる研究が進行中。より少ないデータ・低リソース環境でも高性能を発揮できるディープラーニングの開発が課題となっている。 |
注目されている理由や具体的な活用方法、企業の活用例などを紹介します。
ディープラーニング (深層学習) は、ニューラルネットワークを発展させた機械学習の一分野であり、より層が深いモデルです。
「ニューラルネットワーク」 は人間の脳を模倣した分析構造を持っています。私たちの脳のように 「ニューロン (神経細胞) 」 の働きを数学的にモデル化したものです。
ひとつひとつの 「ノード (人工ニューロン) 」 が入力された情報を受け取り、計算を行い、次のノードへと情報を伝達していきます。
ノードが一層でもあればニューラルネットワークと呼びます。それに対し、ディープラーニングはその層がいくつも重なっているのが特徴です。
ディープラーニングの隠れ層 | 作業内容 |
浅い層 | 画像の中から 「線の方向」 や 「色の濃淡」 といった基本的な特徴を捉える |
深い層 | 「目の形」 「鼻の形」 といった具体的なパーツを理解 |
さらに深い層 | 「この顔は猫の顔らしい」 という高次の概念までを認識 |
層は深ければ深いほど、より複雑で抽象的な特徴を学習できるようになります。またデータから重要な特徴を自動的に学習するのもディープラーニングの特徴です。
では、具体的にディープラーニングのモデルはどのように情報を処理し、学習していくのでしょうか。ニューラルネットワークは、大きく分けて 3 つの層 (入力層、隠れ層、出力層) で構成されています。
入力層は、情報が最初に入ってくるゲートのようなものであり、学習させたいデータがコンピュータに入力されます。
具体例: 猫の画像をピクセル情報として受け取る。
入力された情報は、次の 「隠れ層 (中間層) 」 へと伝達されます。ここがディープラーニングの肝となる部分です。
従来のニューラルネットワークは、1 層のみで特徴を抽出しますが、ディープラーニングは複数の隠れ層を通じて、データの中から様々な特徴を抽出し、分析し、学習します。
前の層から受け取った情報に重み付けを行い、活性化関数と呼ばれる処理を経て、次の層へと情報を渡します。
具体例: ピクセルをもとに、特徴をパターンに当てはめて分析し、学習する。
そして最後に、「出力層」 で学習された結果が導き出されます。
「この画像は猫である」 という分類結果、もしくは 「この文章の次に来る単語はこれ」 のような予測結果が含まれます。モデルの目的によって、出力される形式は様々です。
「隠れ層」 の学習の過程では、出力された結果が正解とどれくらい異なっているかを評価し、その誤差が小さくなるように隠れ層の重み付けを繰り返し、調整していきます。
具体例: 学習した結果、95% の確率で猫と判断。間違っていれば、なぜ間違ったのかを分析し、学習する。
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ディープラーニングを実行する際には、幅広いアルゴリズムがあります。それぞれ異なる手順や計算方法を用いており、用途に合わせて使い分けられます。
以下では隠れ層で使用する、主な 3 つのアルゴリズムについて分かりやすく解説しましょう。
CNN は、Convolutional Neural Network の略で、主に画像認識や動画データの認識や分類などに使用されます。
2016年にアルファ碁 (AlphaGo) が世界最強と言われていた韓国の棋士に勝利したことが話題となりましたが、こちらも畳み込みニューラルネットワークを含むディープラーニング技術と強化学習を組み合わせています。
畳み込みニューラルネットワークには、3 つの層があります。
畳み込み層 | 入力された画像を切り取り、ひとつひとつ計算してなにが特徴かを特定し、抽出する |
プーリング層 | 畳み込み層で抽出した特徴を圧縮し、必要ない部分を取り除く |
全結合 (FC) 層 | 最終的な分類や予測を行う。またパターンを学習する。 |
RNN は、Recurrent Neural Network の略で、日本語では回帰型もしくは循環型とも呼ばれます。
再帰型ニューラルネットワークには過去の入力を記憶できる内部メモリがあり、それを元に時系列的な特徴を見出し、予測や生成するアルゴリズムです。
具体的には過去の時系列を元に、文章の生成や機械翻訳、音声認識などができます。
例えば、「私」 の後に 「は」 もしくは 「が」 が来ると判断できるのが、再帰型ニューラルネットワークのアルゴリズムによるものです。
2025年時点では、再帰型ニューラルネットワークを改良した長短期記憶 (LSTM) や Transformer というアルゴリズムがより頻繁に使われています。これにより長期的な記憶を持つことができるため、精度がパワーアップしました。
GAN は、Generative Adversarial Network の略です。用意されたデータを元に類似的なデータを生成できるモデルです。
似たテーマを持つ画像を数枚読み込ませると、それぞれの特徴を理解し、同テーマを持つ別の画像を生成できます。またカラー画像や高画質への変更も可能です。
2 つの異なるニューラルネットワークをトレーニングし、お互いに競合させて、新たなデータを生成するため 「敵対的」 と呼ばれています。ひとつは新しいデータを生成し、もうひとつは本物のデータかどうかを見分けることで、生成していきます。
ディープラーニングはすでにあらゆる日常生活の場面で活用されています。その応用範囲は多岐にわたりますが、代表的な例をいくつかご紹介します。
顔認証や医療画像の診断補助など、画像処理をし、データ分析をし、判定します。以下は実際の活用事例です。
スマートフォンで撮った写真に写っている人物や物体を自動でタグ付け
防犯カメラの映像から不審者を特定
車の自動運転
がん細胞や不良品の検出
人間の発する様々なアクセントや話し方の違いを学習し、テキストデータに変換することで、コンピュータが私たちの言葉を理解できるようになっています。企業での活用事例は次のとおりです。
スマートスピーカーに話しかけて音楽を再生
車のカーナビに音声で指示
会議の議事録を自動で作成
英語のスピーキングを自動評価
自然言語処理技術により、コンピュータが人間の言葉の意味を理解し、あるいは生成できるようになっています。活用方法は次のとおりです。
日常的に使う検索エンジンの精度向上
ChatGPT のような生成 AI の利用
スマートフォンの音声アシスタント
外国語への翻訳
より多くのデータを元に、パターンを理解し、今後の動きを分析して予測できます。以下はその活用事例です。
株価の予測
今後の需要予測
今後起こり得る危険の探知
通販サイトでおすすめの商品を提案
一般社団法人 日本ディープラーニング協会でもいくつか活用事例を紹介しています。例えば、花王株式会社/株式会社Preferred Networksでは、RNA (リボ核酸) を皮膚から離し、ディープラーニングを用いて肌の状態を分析しています。
これにより、体に負担の少ない方法で、約 13,000 種類の RNA から肌や健康状態に関するデータを取得できるようになりました。
将来の肌ダメージのリスク評価 - 時間短縮
肌内部の状態 - 過去には把握できなかった箇所まで確認できる
遺伝情報の特定 - より個別化したアドバイスが可能になる
Nucleus Research が実施した独自の調査により、Asana でプロジェクトの所要時間を 50% 削減、プロジェクトのミスを最大 90% 削減できることが明らかになりました。
ディープラーニングという概念自体は、実は古くから存在していました。しかし、近年になって爆発的に普及し、私たちの生活に浸透してきたのには明確な理由があります。それは、膨大なデータと計算能力の進化です。
このふたつの車輪が揃ったことで、ディープラーニングは停滞期を脱し、目覚ましい進化を遂げました。
画像、動画、テキスト、音声、センサーデータなど、その種類も量もかつてないほど増大しました。ディープラーニングは、この膨大なデータがあればあるほど、より賢く、より正確に学習することができます。例えるなら、豊富な教材と経験があればあるほど、人間が深く学べるのと同じです。
さらに、GPU (Graphics Processing Unit) に代表される、高速で並列処理に長けたコンピュータの計算能力が飛躍的に向上しました。これにより、複雑な多層ニューラルネットワークの学習に必要な、途方もない計算を短時間で実行できるようになりました。
自社のディープラーニングツールの開発を考えている方も多いでしょう。開発をする前に、開発中に気をつけること、およびディープラーニングの限界について知っておくとスムーズです。
ディープラーニングに読み込ませるデータに偏りがあった場合、誤った結果を出すことがあります。これがバイアス問題です。
どこにバイアス (偏り) があるのかを検出し、データの補充やプロセスの改良などが必要です。
取り扱うデータに関しては、幅広く大量のデータがあること、そしてそのデータの精度が高いことを確認してから読み込ませることが大切になります。
0 からモデルを構築するには、大量なデータが必要であり、そのデータを計算するには GPU を搭載しているような高性能のコンピュータが必要です。またトライ & エラーを繰り返し行う必要があることから、人材コストも大きくかかります。
一番簡単にディープラーニングを使用する方法は、既にあるモデルを元に転移学習をさせることになります。それにより少ない計算量でディープラーニングが使えます。
ディープラーニングの処理速度は、人間を遥かに上回ります。そのため、なぜそのような結果になったのかを調べることができません。
例えば、医療診断や自動運転など、人の命に関わる分野において、説明を求められたときに答えられないことが多く、ユーザーとの信頼に関わってきます。
業務のブラックボックス化とは?問題と解決策ディープラーニングが分析できるのは表面的で単純なことになります。人間のように 「顔は笑っているけど、本心では悲しい」 のような複雑なコミュニケーションは認識できないため、導入が難しいです。
今後、違いを細かく読み取り、認識を可能にすることはできますが、2025年 10月時点ではまだ難しいとされています。
BytePlus 社によると、技術の発展と AI に対する理解が普及すると共に、以下の 5 つのトレンドが 2026年では見られる見通しです。
より複雑で適応性の高いネットワーク構造が開発されると予想されています。従来のモデルは計算コストや電力消費が大きいため、それを抑えた省エネモデルの研究が見込まれています。
量子コンピューティングやニューロモルフィック ハードウェアのような先端インフラが強化するとされています。
GPU や専用 AI チップも最適化と改良がされ、複雑なトレーニングや推論を高速化できる可能性が高いです。
ヘルスケアでは異常検出精度が向上し、早期発見の支援につながるとされています。また金融の不正検出やリスク管理など、不正を見抜く能力も向上されるとしています。
バイアスを検出する技術が上がるだけではなく、個人のレコードが特定できないような手法の普及などが考えられます。
生成 AI が普及していくにつれ、生成 AI やディープラーニングに関するスキルを持った人材が重宝されるとされています。例えば、AI 倫理コーディネーターや AI 統合エンジニア、AI ガバナンス責任者などの職種が生まれるかもしれません。
Asana でも AI によってどう働き方が変わるのかについて解説しています。
AI の活用において、組織が足踏みしている原因と拡大に成功している組織のアプローチをご紹介します。
ディープラーニングについて、その核となるニューラルネットワークの仕組み、そしてなぜ今注目されているのかを見てきました。ディープラーニングは、コンピュータが自らデータから学習し、驚くべきタスクをこなすことを可能にする強力な技術です。
まだ成長段階にある当分野は、今後も私たちの想像を超える進化を遂げていくでしょう。医療、交通、教育、エンターテイメントなど、あらゆる産業でディープラーニングが新たな価値を生み出し、社会をより豊かにしていくでしょう。企業で活用する場合の助けになればと思います。